アートマガジン『InfoMart』

インタビュー

黒沢清【2021年4月17日 上演】

19回目を迎える「シネマ・セレクション」─誰かを想う気持ちが詰まった名作が集まりました。
映画賞を席巻する「スパイの妻〈劇場版〉」の黒沢清監督にお話を伺いました。

所沢ミューズ シネマ・セレクション 世界が注目する日本映画たち Part19

黒沢清イメージ

教え子たちのオリジナル脚本で臨んだ初の歴史ドラマ ある日、東京芸大で教えた野原位から連絡が入り、「神戸で映画を撮る気はないか」とオファーがありました。彼は以前神戸で撮影した『ハッピーアワー』に関わっていて、声をかけてくれたんです。数ヶ月後、同じく芸大で教えた濱口竜介と共に提出してきたのが『スパ物語の舞台となる室内はすべて本物なので、大変見ごたえがあると思います。とりわけ夫婦の住む神戸グッゲンハイム邸は、手に馴染んだ生活感のある洒落た神戸の西洋館で、このような建造物はおそらく日本にこれ一軒だけでしょう。ここをロケ場所として使わせていただけたのは、まことにラッキーでした。

「シネマ・セレクション」の魅力 これまでに何度か参加していますが、「クロウト好みの凝ったセレクトだなあ」と毎回感銘を受けております。東京からの距離感もちょうどよく、中心ではない少しはみ出した場所こそ、何か新しいものが生まれる拠点なのだという説にいかにもぴたりと当てはまっていて、参加する度にワクワクする胸騒ぎを感じます。実は東京で映画を撮るとき、中心部で撮影することはほとんどなく、大抵は周辺部でのロケとなります。『散歩する侵略者』の夫婦の家は所沢でしたし、『クリーピー』の大学も『予兆』の病院もこの近辺でした。つまり、ここいらへんは多くの日本映画がまさに生み出されている実際の場所でもあって、現代日本映画の誕生と完成を同時に支えている、そんな重責をこの映画祭は案外担っているのです。イの妻』の脚本でした。一読してあまりの面白さに舌を巻いたのですが、時代ものには当然予算もかかり、実現させるのは大変難しいことが予想されました。しかし、その後NHKなども参入してあれよあれよと言う間にTVドラマの企画としてスタートしました。

戦時下のリアリティを追求 戦時下の日常を舞台にした娯楽映画は日本でほとんど作られたことがなく、初めての試みをどういう作戦で乗り越えるかというのが、まず僕に与えられた課題でした。戦争という極めて重いテーマが中心に据えられていると同時に、サスペンスやメロドラマといった娯楽映画の構造も持ち合わせているので、正反対のベクトルが打ち消し合わず両立することに一番神経を使いました。時代のリアリティを表現するためにも様々な試行錯誤がありましたが、一番参考になったのはやはり当時作られた映画です。俳優の衣装や髪型、そして立ち居振る舞い、せりふ回しなど、多くは昔の映画を規範としています。

蒼井×高橋×東出 俳優の演技は、いつも僕の予想をはるかに超えます。今回は、例えば蒼井優さんの「卑怯です、そんな言い方」というせりふの切迫感、高橋一生さんの「僕はコスモポリタンだ」の冷静沈着ぶり、東出昌大さんが最後に「よし見よう」と椅子に腰かけたときの虚無、いずれもこちらが指示したわけではなく、俳優たちが独自に生み出した表現です。

贅沢なコスチュームと魅力溢れる洋館 本作ではコスチューム・プレイの楽しさを大画面で体験していただければ、それだけでも充分満足していただけるのではないでしょうか。主要なキャストたちの衣装は、当時の古着が使えるわけもなく、選りすぐった生地を一から採寸してすべて手作りしました。これは大変な贅沢で、ちょっとした見どころです。

【2021年4月17日 上演】

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