季刊誌『InfoMart』

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インタビュー

フジコ・ヘミング(ピアノ)【2018年5月5日 公演】

激動の人生を送り、味わい深い演奏で聴衆を魅了してやまないフジコ・ヘミング。5月に、所沢ミューズの長期休館前のラストリサイタルで再びアークホールに登場します。ピアノと出逢った幼少期から、現在のパリと東京での暮らしまで、様々なお話を伺いました。

フジコ・ヘミング(ピアノ)

幼少期~ピアノとの出逢い 6歳の頃でしたか、大田区の大森に住んでいました。子供向きの大きな楽譜の下段に色鮮やかなおとぎ話のようなさし絵が入っていて、それを見るたびに胸がワクワクしましたが、肝心の音楽の方はまったく覚えていません(笑)。

子供の頃~レッスンの思い出 私は一人でいるのが好きな性質で、友人とはがっかりするような思い出の方が多いのです。小学校のときレオニード・クロイツァー先生のレッスンでショパンを弾きましたら、彼はおどりあがって喜び「いまに世界中の人を感動させる」と母に云っていました。
16歳で右耳がまったく聴こえなくなり、コンサートをしても自分は上手なのか下手なのかわかりませんでした。当時はテープレコーダーもなにもありませんから。

ベルリンとウィーンの留学時代 私の子供のときからの師、レオニード・クロイツァー先生は、いまでもモスクワ・フィルの方たちも知っている大物です。でも、留学したベルリン芸術大学には、クロイツァー先生のような天才はいませんでしたから、がっかりしました。ドイツではスカラシップ(奨学金)をたくさん頂いたので助かりましたが・・・(笑)。
ウィーンでは、バドゥラ=スコダ先生の家で演奏を聴いてもらったのですが、テクニックの不足を指摘されました。でも彼は私のショパンが一番気に入っているようでした。「あなたはすばらしいから自分の好きなように演奏しなさい」と云って下さいました。ウィーンでの生活はどろぬまでした。大好きな犬も猫もいない。お金もない(笑)。でも、レナード・バーンスタインに出逢うことができたのは最高でした。

思い出の楽譜~思い出に残る共演者 思い出の楽譜は子供のときに使っていて、レオニード・クロイツァー先生をおどりあがらせたショパンの楽譜くらいのものでしょうか。その楽譜はいまでもパリにありますが、お見せするほどのものでもないでしょう(笑)。
モスクワ・フィル、ヴァイオリンのマキシム・ヴェンゲーロフ、チェロのミッシャ・マイスキーとの共演は印象に残っていますね。スペインのバルセロナ、モスクワ、サンフランシスコ、ニューヨーク、ミンスク、パリ、ブダペスト、ブカレストなど、いろいろな町で演奏するたびにサインを求められ嬉しい気分です。

パリと東京の生活~自宅のピアノ パリはユトリロの画のように美しい芸術の町だとつくづく感じ、毎日犬と歩くのは夢ごごちです。東京では暗くなってからしか出歩きませんね(笑)。
パリの自宅にはスタインウェイ、東京にはヤマハ、京都の家にはベヒシュタインのピアノがあります。私はあまりピアノのメーカーにはこだわりません。東ヨーロッパ、ポーランド、チェコ、ロシアなどでは、ピアノがボロの場合も相当にありますから(笑)。あたえられた楽器で最高の音をそこから出すようにつとめています。

絵画への思い 絵をかくのが好きなのは父の影響だと思いますよ。
私の父は当時、朝日イブニングニュース紙に連載でマンガを出しているくらいの天才でしたが、戦争でチャンスも消えてしまったと思います。父が日本を去るとき、母にくれぐれも子供を画家にはしない様たのんだそうです(笑)。
どの画家が好きとは特に云えませんが、その中のどの画とは云えます。特に気に入っているのは、ロートレック、北斎など。ロートレックのふで使いは北斎にもにていますね。

敬愛する音楽家 指揮者で敬愛するとすれば、ベネズエラのグスターヴォ・ドゥダメル、レナード・バーンスタインくらいのものです。ピアニストではあまりいません。まねしたいと思う弾き方をしているのはラフマニノフくらいです。

愛するワンちゃん・猫ちゃんについて 犬と猫は、私の大切な「ハンリョ」です。人間はしゃべりすぎるので、いつも傷ついてしまいますが、動物たちは無言で寄りそってくれます。彼らなしにいまの私はなかったと云っていいでしょう。
20代の頃は捨て犬をかっていましたが、私のショパンやチャイコフスキーを聴くと歌う犬で、テレビ局から取材に来て、スタジオにも呼ばれてライブ放映されました(笑)。
いま、東京にいる25匹の猫のうち1匹だけ私の演奏を聴いているのがいます。ピアノの上でじっと聴いていますが、いつもではありません。パリのワン公も東京で去年死んでしまった犬も全然です。演奏を聴いてもなにも感じないようです。

【2018年5月5日 公演】

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