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インタビュー

鈴木優人(指揮者)【2020年9月21日 公演】

今年、創立30周年を迎えるバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)。所沢ミューズでの記念演奏会では、首席指揮者に就任した鈴木優人がバッハ晩年の傑作『ミサ曲ロ短調』を取り上げる。指揮、オルガン、作曲など多彩な活動を展開する稀有な才能、鈴木優人の素顔に迫った。

バッハ・コレギウム・ジャパン J.S.バッハ ミサ曲 ロ短調 鈴木優人[指揮]

鈴木優人(指揮者)イメージ

中学でオーケストラを指揮 生まれたのはオランダですが、すぐに日本に戻り、8歳までを神戸で過ごし、9歳で調布に移りました。中学生の頃はオーケストラ部に入り、フルートやファゴットを吹いていました。フルートの世界的な名手、有田正広さんのCDをかけながら、一緒に演奏して遊んだりしていました。そのままフルートの道を進んでいたら、フルート奏者の妻*とは結婚しなかったかもしれないですね(笑)。初めてオーケストラを指揮したのもこの頃で、合宿のときに解説をしながら演奏したのをよく覚えています。
*奥様はフルート奏者の鶴田洋子さん

オランダの留学時代 オランダのハーグ王立音楽院では、オルガンを専攻しました。当時の日本では、古楽というとまだマイナーなイメージでしたが、ハーグでは古楽科だけで200人くらいいましたし、小さな国なのに世界中から才能が集まり、音楽的に非常に開かれた雰囲気を感じました。ハーグでは、即興演奏とチェンバロも勉強しましたので、その経験すべてがいまの自分の活動に活きていると感じるほど、充実した時間を過ごしました。

BCJとの初共演 初めて父(鈴木雅明)の指揮するBCJと共演したのは2002 年、ヘンデルの『メサイア』の鍵盤楽器奏者(通奏低音)としてでした。当時はチェロの鈴木秀美さんが、通奏低音パートのみならず全体をビシバシとまとめていてちょっと怖いくらいでした(笑)。通奏低音は歌手のメロディーやハーモニー全体を見渡して演奏を支えなければならないので、まさにベースとなる存在。演奏全体や作品を理解するためにとても勉強になりました。

指揮者としてBCJと共演 初めてBCJを指揮したのは、東京のラ・フォル・ジュルネでの『マタイ受難曲』でした。定期演奏会では『ヨハネ受難曲』も指揮しました。通奏低音も指揮も音楽をつくるという意味では違いはありませんので、何か特別な新しいことという印象はありませんでしたね。でも、リハーサルで父と同じようなことを言うとプレイヤーのみなさんがクスクス笑ったりしてましたね(笑)。とにかく全力で取り組んだので、満席の客席から温かいレスポンスをいただき、仲間からも嬉しいメッセージが来たのはすごく自信になりました。

BCJの首席指揮者に就任 音楽監督である父が演奏の方向性を決めていきますので、首席指揮者としては新鮮さ、新しい視点を提示できればと思っています。演奏は常に生きていますので、溜まり水のようだと濁ってしまいます。レパートリーでも楽譜の読み方でも、30年の歴史がある楽団だからこそ可能な、新しいチャレンジをしていきたいと考えています。楽団の第一世代である父の良いところを継承しつつ、第二世代が新たな取り組みを行い、そして次の世代へと素晴らしい音楽をつないでいきたいですね。

指揮、鍵盤楽器、作曲など多彩な活躍 マルチな才能なんてよく言われますが、全然そんなふうに思ったことはないですね。ただ、音楽をやっているだけですから。もし演奏をしながら、投資もして、漁業もして、農業もして、という感じならマルチなんでしょうけど(笑)。バッハもオルガンを弾き、作曲して、合唱を指導してと、とても多岐にわたる活動をしていました。家族も大切にしていましたしね。私も「いま、何をやるべきか」というひらめきを大切にしながら、バランスよく音楽に取り組むことができたらと思っています。そういう意味では、バッハは自分にとっては偉大なモデルかもしれないですね。

『ミサ曲ロ短調』の世界 『ミサ曲ロ短調』はバッハの最高傑作の1つですが、全曲通して演奏された証拠もありませんし、作曲の動機は推測するしかありません。体調を崩した晩年のバッハが、ミサ曲という普遍的な内容で自らの音楽を集大成したのだと思います。カンタータや受難曲のようにファンタジーに富む自由な歌詞を展開することはできませんが、定型の祈りのなかに、古い厳格なフーガから華麗なオペラ・アリアのスタイルまで、実に多様で見事な音楽をバッハは残しました。世界中で活躍する5人の名歌手と共に、豊かな響きのアークホールで初めてBCJを指揮できるのをとても楽しみにしております!

【2020年9月21日 公演】

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